解雇ができるケース,できないケース

 解雇には,解雇が行われる理由に応じて,大きく3つの種類があります(別途,「解雇の種類」の記事をご参照ください)。

 以下では,解雇の適法性をめぐり裁判となったケースについて,①解雇が認められたケースと②認められなかったケースとに分けて,一例をご紹介します。

 

  •  普通解雇

 (解雇が認められたケース)

  ケース①(私傷病が長期間改善しない場合)

慢性腎不全の従業員が腎臓移植手術を受けた後,自宅療養のため出社できない状態が2年以上続き,企業側がさらに休職等の配慮を行ったものの,回復・改善することがなかったため,雇用打ち切りをとしたケース。裁判所は,合理的な配慮を行っても,雇用を維持することは困難であるとして,解雇を有効としました(東京地裁平成10年9月22日判決)。

 

  ケース②(能力向上意欲に乏しく,勤務成績も改善しない場合)

システムエンジニアとして採用されたが,能力が伴わず,教育訓練をしても意欲不足で身につかず,日常の勤務成績も悪かった従業員に対する解雇を行ったケース。裁判所は,上記事情のほか,企業が解雇に際し,当該従業員に意見申述の機会を与えたことや,改善努力の経過観察などの措置を講じ,十分な配慮を行ったことも加味して,解雇を有効としました(東京地裁平成11年12月15日判決)。

 

 (解雇が認められなかったケース)

  ケース(解雇処分が社会的相当性を欠くとされたケース)

放送局のアナウンサーが2週間に二度の寝過ごしたため放送ができなかったため,就業規則に定めた解雇事由に該当するとして解雇を行った事案。もっとも,本件では,上記事故について,当該従業員のみを責めるのは酷である事情(通常,アナウンサーよりも早く起きて,アナウンサーを起こすこととされていた担当者も寝過ごしていた)が存在し,また,同人の普段の勤務成績等には特段問題がなく,上記事故についてきちんと認めて謝罪の意を表していること等の事情を踏まえ,裁判所は,解雇は,不相当に重い処分であるといえ,無効と判断しました(最判昭和52年1月31日判決)。

  •  懲戒解雇

 (解雇が認められたケース)

  ケース①(重要な経歴詐称の場合)

コンピュータソフトウェアの研究開発等を目的とする企業に入社するに際し,自己にJAVA言語のプログラミング能力があるかのような経歴書を提出した(さらに,面接時にも同様の説明を行った)が,実際にはそのような能力が備わっていなかった従業員に対し,経歴詐称を理由に懲戒解雇を行ったケース(東京地裁平成16年12月17日判決)。裁判所は,当該従業員が,企業が当時行っていた開発事業に必要なJAVA言語プログラマーであることを理由に採用されたことに着目し,当該従業員は,「重要な経歴を偽り採用された」のであるから,懲戒事由が存在するとして,解雇が認められました。

 

  ケース②(著しい職務懈怠の場合)

工場従業員が,6か月間に合計24階の遅刻と14回の欠勤を繰り返し(そのうち会社に事前届を行ったのは,1回のみであった),その間の上司からの注意等にも従うことなく,同様の行為を繰り返したことを理由に,懲戒解雇を行ったケース。会社が就業規則で,懲戒事由として定める「正当な理由なく遅刻・早退または欠勤が重なったとき」に該当するとして,解雇を認めました(横浜地裁昭和57年2月25日判決)。

 

 (解雇が認められなかったケース)

  ケース(欠勤の理由等について,十分な調査・対応を怠った場合)

何らかの精神的不調が疑われる従業員が無断欠勤を行ったが,企業側として,精神外科による健康診断等を実施して,その結果を踏まえて休暇をとらせる等の措置を講じることなく,直ちに正当な理由のない無断欠勤であると判断して,当該従業員を諭旨解雇(形式上は,退職を促し,自己都合退職の扱いとするなど,懲戒解雇よりもやや緩やかな懲戒処分)したケース。裁判所は,企業による対応が適切であるとは言い難いとして,解雇の効力を否定しました(最判平成24年4月27日判決)。

 

  •  整理解雇

 (解雇が認められたケース)

  ケース(経営状況が悪く,解雇者の選定や不利益回避措置を講じることができなかったことについて,やむを得ないものと評価された事例)

企業の吸収合併に伴い,従業員の全員が解雇の対象とされた事案で,裁判所は,従業員に対する退職金の原資となるべき金員が極端に不足しており,希望退職の方法をとった場合,残留従業員の将来の退職金支払に不安が残るため,全員解雇の方法を採用したのであるから,解雇には,必要性及び合理性が認められると判断しました(東京地裁平成13年7月6日判決)。

 

 (解雇が認められなかったケース)

  ケース①(解雇回避のための努力を尽くさなかった場合)

約15年間従事してきたパート従業員が,減益傾向の中で事業転換・再構築を図る必要性から解雇された事例で,裁判所は,当該従業員以外の従業員に対して,希望退職者を募ったり,退職勧奨を行ったことはないこと,また,本件従業員については,職種変更や配転を行うことによって解雇を回避することの可能性が存在した(のに,これを検討しなかった)として,解雇回避努力義務違反を理由に,解雇を無効としました(大阪地裁平成12年12月1日判決)。

 

  ケース②(対象者の選定に合理性がなく,解雇努力義務がなされたことも認められなかった場合)   

収益悪化を理由に,整理解雇を行ったが,選定基準としては,人事考課成績の低い者から,管理職及び代替性の低い労働者と会社が考える者等を除外する形で選定が行われたケース。本件では,人員削減の必要性は肯定されたものの,解雇に先立って,希望退職を募集したり,臨時社員の削減等を行っておらず,解雇回避努力が否定されました。また,人事考課を基準として選定を行うこと自体が合理性を欠くとはいえないものの,人事考課結果が低いのに被解雇者から除外された者の選定基準については合理的と認められず,選定の方法にも合理性が認められなかったため,結果として,解雇が無効とされました(横浜地裁平成18年9月26日判決)。


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